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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)9232号 判決

大阪府守口市寺方本通一丁目八番三号

原告

株式会社アークエース

右代表者代表取締役

北村譲

右訴訟代理人弁護士

筒井豊

西川太郎

野村公平

糸島達三

右輔佐人弁理士

鎌田文二

東尾正博

鳥居和久

大阪府四條畷市大字中野二九-一

被告

中村日出大

神奈川県川崎市宮前区野川四〇二二番地

被告

タイヨー産業株式会社

右代表者代表取締役

由利英明

右両名訴訟代理人弁護士

村林隆一

松本司

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

辻川正人

東風龍明

片桐浩二

久世勝之

岩坪哲

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告中村日出大は、別紙物件目録記載の物件を製造し、販売してはならない。

二  被告タイヨー産業株式会社は、前項記載の物件を販売してはならない。

第二  事案の概要

【争いのない事実】

一  当事者

1 原告は、土木建築用の面木(コンクリートの柱、梁の面となる部分に打ち付ける細い木)、目地棒(壁や天井を張るとき、そのはぎ目に入れる木や金物などの棒)、養生シート、保護シートの製造販売、土木建築用の金属フープ(帯筋)材、木材、合板、コンクリート、モルタルによる建築資材の製造販売、土木建築用のプラスチック資材、製品の製造販売その他の事業を目的とする株式会社である。

2 被告中村日出大(以下「被告中村」という。)は、「ベスト産業」の商号を用いて、個人でコンクリート型枠材の締結具等の土木建築用のプラスチック資材の製造販売を業としている。

3 被告タイヨー産業株式会社(以下「被告会社」という。)は、合成樹脂製品の製造販売、建築用機器及び材料の販売その他の事業を目的とする株式会社である。

二  原告の権利

1 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その実用新案登録請求の範囲1項記載の考案を「本件考案」という。)を有している。

(一) 考案の名称 受座

(二) 出願日 昭和五六年一〇月七日(実願昭五六-一四九八四九号)

(三) 出願公告日 昭和六〇年一一月八日(実公昭六〇-三七四五七号)

(四) 登録日 昭和六一年六月一一日

(五) 登録番号 第一六四〇五八七号

(六) 実用新案登録請求の範囲

「1 ナット締付面側の壁面を直壁に形成し、該直壁の反対側の壁面を凹円弧状のガイド壁とし、かつ、スライドガイド舌片を前記ガイド壁の両側壁より内方に向い突設すると共に、前記両壁面の中央部にボルト貫通孔を設けた固定具と;被締結材側の壁面を直壁に形成し、該直壁の反対側の壁面を上記ガイド壁に対応する凸円弧壁とし、かつ、両側壁にその底面が該凸円弧壁と平行なスライドガイド用の切欠溝を形成すると共に、前記両壁面の中央部にスライド方向の長孔を貫設したスライド具と;から成り、上記固定具のガイド壁にスライド具の円弧壁を前記スライドガイド舌片を介してスライド具の脱落を防止するよう固定具とスライド具を嵌合し、スライド具の直壁が固定具の直壁に対し角度自在とされ、ナットの座面と固定具の直壁及び被締結材の面とスライド具の直壁とが面一となるように構成したことを特徴とする受座。

2 固定具のスライドガイド舌片に突起を形成し、該突起と嵌合する複数個の凹孔をスライド具のスライドガイド用の切欠溝に適宜凹設したことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の受座。」(添付の実用新案公報〔以下「公報」という。〕参照)

2 本件考案の構成要件

本件考案の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。

A(イ) ナット締付面側の壁面を直壁に形成し、

(ロ) 該直壁の反対側の壁面を凹円弧状のガイド壁とし、かつ、

(ハ) スライドガイド舌片を前記ガイド壁の両側壁より内方に向い突設すると共に、

(ニ) 前記両壁面の中央部にボルト貫通孔を設けた、固定具と、

B(イ) 被締結材側の壁面を直壁に形成し、

(ロ) 該直壁の反対側の壁面を上記ガイド壁に対応する凸円弧壁とし、かつ、

(ハ) 両側壁にその底面が該凸円弧壁と平行なスライドガイド用の切欠溝を形成すると共に、

(ニ) 前記両壁面の中央部にスライド方向の長孔を貫設した、スライド具とから成り、

C 上記固定具のガイド壁にスライド具の円弧壁を前記スライドガイド舌片を介してスライド具の脱落を防止するよう固定具とスライド具を嵌合し、スライド具の直壁が固定具の直壁に対し角度自在とされ、

D ナットの座面と固定具の直壁及び被締結材の面とスライド具の直壁とが面一となるように構成したことを特徴とする、

E 受座。

3 本件考案の作用効果

本件考案の作用効果は次のとおりである。

(一) 従来における各種角度を有する個々の受座の使用を解消し、受座選択の手間を省き、一種の受座を用いれば足りるので、作業時間の短縮化と備品のコスト高を防止できるという利点がある。

(二) 締結具であるナットの座面及び被締結材の壁面と受座の直壁が常に面一となるために、確実な締結作業が確保され、作業の完全化が図られる利点がある。

(三) 型枠支保工のセパレータ用の受座に限られることなく、各種締結具の受座として各方途の作業に利用できるので、その利用価値大となり有益なものである。

三  被告らの行為

1 被告中村は、平成三年六月頃から、業として、別紙物件目録記載の受座(以下「被告製品」という。)を製造販売している。

2 被告会社は、業として、被告中村から買い受けた被告製品を販売している。

四  被告製品の構成及び作用効果

1 被告製品の構成

被告製品の構成は、次のとおり分説するのが相当である。

a(イ) ナット締付面側の壁面を直壁2に形成し、

(ロ) 該直壁2の反対側の壁面を凹円弧状のガイド壁3とし、かつ、

(ハ) 先端をガイド壁3に向けて屈曲したL型のスライドガイド舌片5を前記ガイド壁3の両側壁4、4より内方に向い突設すると共に、

(ニ) 前記両側壁面の中央部にボルト貫通孔6を設けた、

固定具1と、

b(イ) 被締結材側の壁面を直壁8に形成し、

(ロ) 該直壁8の反対側の壁面を前記ガイド壁3に対応する凸円弧壁9とし、かつ、

(ハ) 両側壁10、10にその底面が該凸円弧壁9と平行なスライドガイド用の切欠溝11を形成すると共に、

(ニ) 前記両壁面の中央部にスライド方向の長孔12を貫設した、スライド具7とから成り、

c 前記固定具1のガイド壁3にスライド具7の凸円弧壁9を前記スライドガイド舌片5を介してスライド具7の脱落を防止するよう固定具1とスライド具7を嵌合し、スライド具7の直壁8が固定具1の直壁2に対し角度自在とされ、

d ナットの座面と固定具1の直壁2及び被締結材の面とスライド具7の直壁8とが面一となるように構成したことを特徴とする、

e 受座。

2 被告製品の作用効果

本件考案の作用効果(二3(一)ないし(三))に同じ。

五  被告製品と本件考案との対比

被告製品の構成a~eは、本件考案の構成要件A~Eを順次充足し、その作用効果は本件考案のそれと同一である。もっとも、被告製品は本件実用新案登録願書添付明細書及び図面記載の実施例と全く同一ではなく、形状・構造に差異のある部分がある。

六  請求の概要

被告製品が本件考案の技術的範囲に属することを理由に、〈1〉被告中村に対し被告製品の製造販売の停止を、〈2〉被告会社に対し被告製品の販売の停止を請求。

七  争点

1 本件考案は、その出願前に、日本国内において公然実施された(ないしは公然知られた)全部公知のものであるか。

2 原告の本訴請求は権利の濫用に該当するか。

第三  争点に関する当事者の主張

1  被告らの主張

被告中村は、昭和五五年一〇月頃、本件考案の受座と同一構造を有する、コンクリート型枠材の締結に使用されるボルト、ナット等締結具の受座部分が、固定部材とスライド部材とから構成され、この両者を嵌合し、スライド具の被締結材側の壁面が固定具のナット締付面側の壁面に対し角度自在の回動式の構造とした製品(以下「被告旧製品」という。)を考案してその設計図(乙二の2)を完成し、その頃、右設計図に基づく金型の製作とその製作された金型を使用してその被告旧製品一万五〇〇〇個の製造を株式会社安居製作所(以下「安居製作所」という。)に依頼するとともに、この被告旧製品と同被告が先に考案し当時実用新案登録出願中(乙一)で既に販売を開始していた、締結具の角度自在の回動式本体及びそれらに螺合させる金属製コン軸とを組み合わせてセットにした製品(以下「被告旧販売品」という。)を「型枠用自在テーパーコン」の商品名で販売することを計画しその宣伝広告を開始した。そして、同被告は、同年一二月から昭和五六年一月にかけて、完成した被告旧製品をセットに入れた被告旧販売品を、被告中村の当時の個人事業「ニチモ工業」を製造発売元として、〈1〉日鉄工業株式会社に対し四二〇〇個、〈2〉フジ商会こと平瀬金之亟に対し一万五〇〇個、〈3〉辻商工株式会社に対し七〇〇個の合計一万五四〇〇個販売した。被告旧製品(検乙一の2)は本件考案の構成要件を全部具備するから、本件考案は、出願日(昭和五六年一〇月七日)前に日本国内において公然実施された(ないしは公然知られた)全部公知のものである。したがって、本件実用新案登録出願は実用新案法三条、一一条により拒絶されるべきものであることが明らかであるから、その技術的範囲は願書添付明細書に記載された実施例の形状・構造のものに限定されるべきところ、被告製品は、固定具のガイド壁3の側壁及びスライドガイド舌片5の形状等において、右実施例の形状・構造と異なることが明らかである。したがって、被告製品は本件考案の技術的範囲に属しないというべきである。

また、本件考案が出願前全部公知のものであるから、本件実用新案権に基づく本訴請求は権利の濫用に該当し許されない。

2  原告の主張

本件考案が出願日前に日本国内において公然実施された(ないしは公然知られた)全部公知のものであるとする被告らの主張は誤りである。すなわち、被告らが本訴において右主張事実の裏付証拠として提出援用する乙第二号証の1・2(被告中村作成の被告旧製品の回動式本体の設計図〔同号証の1〕及び被告旧製品の動く座の設計図〔同号証の2〕)、乙第五号証の2ないし4(摘要欄等に「動く座」又は「動く座付」と付記された、右1〈1〉~〈3〉記載の各販売先に対する被告旧製品の納品書〔控〕)及び乙第六号証(被告中村が取引先に対して依頼した被告旧販売品に関するアンケート調査の回答返信用葉書)はいずれも証拠力を欠いており、被告らの主張を支えるものではない。詳細は次のとおりである。

(一)  乙第二号証の1・2

乙第二号証の1・2自体には作成日付の記載がなく、その作成時期を文書そのものから特定することは不可能である。また、被告らが被告中村の作成にかかる被告旧製品の設計図であると主張する乙第二号証の2は、被告ら主張のように昭和五五年一〇月頃に作成されたものではなく、被告中村がタイセイ建材工業株式会社(平成二年一〇月二日原告と合併し解散、以下「タイセイ建材」という。)に再入社した昭和五七年四月以後に、タイセイ建材の社内で本件考案の実施品の商品化が検討された際、当時担当係長であった同被告がその職務の一環として作成したものである。何故ならば、公報の実施例は右設計図の図示内容と次の点で相違しており、右設計図の作成時期が被告ら主張のように昭和五五年一〇月頃とすれば、右相違点を合理的に説明できないからである。

〈1〉 スライドガイド舌片の位置の変更

願書添付図面第3図、第5図及び第7図を見ると、実施例では、スライドガイド舌片5、5は、固定具1の両側壁のうち別紙(1)に丸印で表示した位置に設けられている。これに対し、右設計図では、スライドガイド舌片は、固定具の両側壁のうち別紙(2)の丸印で表示した位置に設けられている。

〈2〉 ストッパー壁の省略

願書添付図面第4図及び第5図を見ると、実施例では、スライド具7の両側壁のスライドガイド用の切欠溝11は、その底面が全体にわたってスライド具7の凸円弧壁9と平行な円弧状に表示されている。これに対し、右設計図では、スライド具の両側壁のスライドガイド用の切欠溝は、切欠溝の両端にスライド具の直壁に対して略直角となるようなストッパー壁が形成されている(もしこのストッパー壁がなく、切欠溝の底面全体を凸円弧壁に平行な円弧状に形成した場合、スライドガイド舌片を係合する手段がなく、スライド具は固定具から脱落するおそれがある。)。

〈3〉 その他の実施例の記載

願書添付図面第7図及び第8図には、本件考案のその他の実施例として、固定具1のスライドガイド舌片5の下面に突起18を設けるとともに、スライド具7のスライドガイド用の切欠溝11の底面に適数個の凹孔19を設けた構成例が図示されており、右図示に対応する本文の説明中には、「前記突起18が凹孔19に嵌合すると固定具1とスライド具7の確実な固定がはかられ、締結具の受座としての効果を更に向上せしめるものである。」(公報4欄23行~26行)との記載がある。これに対し、右設計図には、右の突起や凹孔に相当する部分の図示は一切なく、その他の実施例記載の構成を採用した受座は過去にも製品化されたことがない。

そして、以上の実施例と右設計図の図示内容との相違点に鑑みると、仮に被告ら主張のように本件考案が本来被告中村個人の創作・認識にかかるものであり、これを願書記載の考案者である西宇晴一(以下「西宇」という。)が同被告に無断で実用新案登録出願したものとしても、もし被告ら主張のとおり右設計図が真実昭和五五年一〇月頃に作成されたものとすれば、西宇は、出願に際し、当然のことながら右設計図又はそれに基づき製作された金型を参照したと推測されるにもかかわらず、作用効果の相違も十分理解しないまま、わざわざ願書(甲三の2)添付明細書の考案の詳細な説明において、前記したようにスライドガイド舌片の位置を変更したり(〈1〉)、ストッパー壁を省略した(〈2〉)実施例を記載したことになるが、同人がそのようなことをする理由は全く見当たらず、さらには、冒認出願をするような同人にその他の実施例(〈3〉)を創作するだけの知識と能力があったと考えるのは極めて不自然である。

そうだとすれば、仮に本件考案を完成させたのが被告中村であり、西宇がこれを自らの考案者、出願人名義で冒認出願したものとしても、少なくとも右設計図の作成時期よりも後に右出願がされたと認めることは不可能であり、むしろ、これら願書添付明細書及び図面の記載及び右設計図の図示内容から合理的に推論するならば、本件考案は、出願時においては未だ実施例記載の構成が創作・認識された程度の段階にとどまり、その具体的な実施行為(実施品の製造販売等)は存在せず、その後の現実の商品化の段階においてこれを更に実用的に具体化して右設計図が作成されたものと認められる。

(二)  乙第五号証の2ないし4

乙第五号証の2ないし4の納品書(控)の摘要欄等に記載されている、「動く座」又は「動く座付」という付記部分は、その記載態様からみても、それ自体極めて不自然な記載であり、被告中村自身が右各文書を現在まで継続して保管していたことからすると、右各付記部分は事後に同被告が追加記入した虚偽の記載である可能性が高い。

(三)  乙第六号証

乙第六号証の葉書の裏面では「自在テーパーコン」の名称が使用されている(5項)。しかし、用語本来の意味としては、「テーパー」の語は傾斜角度を有することを意味し、「コン」の語は円錐体を意味するから、この二つの語を結合した「自在テーパーコン」の語句は、回動自在性というコンクリート型枠材の締結具の本体部分の構造上の特徴を示すために用いられた用語であり、受座部分の構造上の特徴とは無関係なものというべきである。そのことは、例えば、〈1〉 被告中村が昭和五三年に個人で実用新案登録出願した、コンクリートを傾斜面に打設するのに適する「コンクリート型枠間隔保持具」の回動式本体部分に関する考案の実用新案登録出願(実願昭五三-六八五二六号)願書(乙一)添付図面第3図に、本体部分は角度自在の回動式であるが、受座部分は固定角度を持った楔形の部材(番号7の部材)を用いたコンクリート型枠間隔保持具の構成例が図示されていること、及び、〈2〉 同被告が「ニチモ工業」の商号で土木建築用資材の製造販売の個人事業を営んでいた当時に作成されたパンフレットである甲第八号証にも、「型枠用自在テーパーコン」の名称が付されたコンクリート型枠材の締結具が図示されているが、そこでは角度自在の回動式の本体部分とともに、固定角度を持った楔形の受座(分解略図番号4のクサビ)が図示されていることからも明らかである。したがって、右のように「自在テーパーコン」の名称が用いられているからといって、それが直ちに本件考案の受座と同一構造を有する角度自在の被告旧製品をセットに加えたコンクリート型枠材の締結具(被告旧販売品)を意味することにはならない。

(四)  被告中村の主張・供述の不自然さ

被告中村が昭和五五年七月頃から昭和五六年一月頃にかけて、回動式受座の設計、製造、販売を行った旨の主張・供述は、いずれも極めて不自然であり、かつ、矛盾が多々見受けられる。

本件各証拠を検討しても、被告中村がその主張のように本件考案の出願前である昭和五五年一二月から同五六年一月頃にかけて本件考案と同一の構造のコンクリート型枠材の締付具を構成する回動式受座(被告旧製品)を製造販売した事実を認めるに足りる客観的証拠といえるものは何もないうえ、この点に関する被告中村の主張は極めて不自然である。結局、右のような事実は存在しないと解すべきであり、したがって、本件考案が出願前全部公知の考案であるとの被告ら主張は、何らの根拠もないことになる。

第四  争点に対する判断

一  【認定した事実関係】

1  被告中村は、昭和四五年六月頃、同年一月三〇日に大阪市都島区内に本店を置いて設立され、建築請負、土木工事請負等を業としていたタイセイ工業株式会社(以下「タイセイ工業」という。)に入社し、面木、目地棒、コンクリート型枠材の締結具等の土木建築用資材販売の営業及び厨房設備の設計等の業務に従事していた。(甲二〇、乙一一の1、被告中村本人)

2  被告中村は、営業先の顧客の提案をヒントにして、従来のコンクリート型枠材の締結具では型枠材の傾斜面の傾斜角度に応じた各種の製品が必要となり各種製品を在庫していなければならないという問題があるので、一個でどのような傾斜角度のコンクリート型枠材の傾斜面でも固定保持できるような締結具についての着想を得て、昭和五三年頃、コンクリート型枠材の締結具の受座部分及びコン軸を除いた本体部分について、支持台と型枠支承部材とから成る角度自在の回動式に構成したことを特徴とする、「コンクリート型枠間隔保持具」の考案を完成し、同年五月一九日、右考案について実用新案登録出願をした(実願昭五三-六八五二六号)。右願書(乙一)添付明細書の実用新案登録請求の範囲には、「内側ロッドと外側ロッドを螺合して組立てる式のものにおいて、その外側ロッドに、その内側部に位置して、型枠支承部材を垂直方向に回動自在に備え、外側部に位置して型枠を上記型枠支承部材に対し適宜傾斜形態で押圧する押圧手段を具備することを特徴とするコンクリート型枠間隔保持具。」と記載した。

一般に、コンクリート型枠材の締結具は本体部分、コン軸及び受座部分から構成され、これらで又はその外に支持金具及び支持枠材等を加えて、コンクリート型枠材を両面から締結して固定保持する土木建築用資材である。そして、右出願当時、右締結具に関する従来技術としては、〈1〉 コンクリート型枠材を垂直に固定保持するときに使用される、形状が略円錐台状でコンクリート型枠材との接触面がコン軸(鉄芯)に垂直な平面になっており、受座に相当する部材を必要としない、「Pコン(ポリコン)」と称される製品(検乙五、使用方法については乙一八添付の写真1の1~8参照)と、〈2〉 コンクリート型枠材を傾斜させて固定保持するときに使用される、コンクリート型枠材との接触面がコン軸(鉄芯)に垂直でなく傾斜した面になっている本体部分と一方が本体部分の斜面に対応してコン軸(鉄芯)に対し円錐台状又は四角柱状(側面視において楔形)の受座とがセットになった「テーパーコン」と称される製品(検乙六の1・2、使用方法については前同)の二種類が存在した。しかし、これらの製品はいずれも固定式の構造であり、「テーパーコン」の場合も、コンクリート型枠材の傾斜面を固定保持する角度が一定不変であるため、工事現場において要求されるコンクリート型枠材の種々の傾斜面の傾斜角度に合せた、本体と受座を何種類も(通常は五、六種類程度)用意する必要があるという不便ないし無駄があり、この不便ないし無駄を解消すべきであるとの技術的課題を抱えていた。これに対し、被告中村の完成した右考案では、それまで一体成形されていた本体部分を固定部材とする支持台と回動部材とする型枠支承部材とに分け、型枠支承部材をコン軸(鉄芯)に対し垂直方向に回動できる構成にしたため、ある一定の範囲内で所望の角度に設定してコンクリート型枠材を固定保持することができ、その結果、一種類の本体部分で何種類ものコンクリート型枠材の傾斜面の傾斜角度に対応できるようになったため、右不便ないし無駄をなくすという技術的課題を解決したものである。なお、特許庁審査官は、昭和五九年に右実用新案登録出願について拒絶理由通知をしたところ、当時被告中村は経済的余裕がなかったためこれに適切に対応できず放置した結果拒絶査定され、右出願は結局未登録のまま終わっている。(甲六、乙一、一一の1、一八、被告中村本人)

3  タイセイ工業は、昭和五三年頃経営が悪化して事実上倒産し、同年一〇月頃、同社の建材部門がタイセイ建材に営業譲渡され、同建材部門の従業員であった被告中村も右営業譲渡に伴い同社に移籍し同社の従業員となった。(甲一八~二〇、二二~二四、乙一一の1、被告中村本人)

4  被告中村は、昭和五五年二月頃タイセイ建材を退社し、その頃大阪府四條畷市内で「ニチモ工業」の商号でコンクリート型枠材の締結具等の土木建築用資材の製造販売の個人事業を始めた。そして、同被告は、同年六月頃、その構造が当時実用新案登録出願中であった前記2の考案の願書(乙一)添付明細書の実施例の構造と略同一である、コンクリート型枠材の締結具の回動式構造の本体部分の設計図(乙二の1)を作成し、同年七月頃、右設計図に基づいて安居製作所に右回動式本体部分の金型の製作とその製作された金型による製品の製造を依頼し(受座部分〔一分勾配~五分勾配の五種類〕は従来の固定式構造の市販品と同じ構造であったのでそれを転用)、同年九月頃から完成した右回動式本体部分と固定式受座部分及びコン軸を組み合わせてセットにしたコンクリート型枠材の締結具の販売を開始するとともに、大原印刷株式会社(以下「大原印刷」という。)に依頼して、右締結具(商品名「型枠用自在テーパーコン」)のパンフレット(当初、製品の製造及び組立を他社に全面的に任せることも考えていた関係で、甲八〔「発売元ニチモ工業」の記載があり、製造元の記載はない。〕のものと乙九〔「製造発売元ニチモ工業」の記載がある。〕のものの二種類がある。但し、両者とも勾配表の隅延面積欄の二段目に本来「0.1305」と記載されるべきところが「0:1305」と記載されている誤植があり、また、両者とも同様にコン軸のネジ溝線の間隔が不均等に描かれている。)を作成し、それらを取引先に配布した。(甲八、乙一、二の1、五の5~33、八、九、一一の1・2、一二、被告中村本人)

5  しかし、右回動式本体部分と固定式受座部分及びコン軸を組み合わせてセットにしたコンクリート型枠材の締結具では、本体部分は種類を少なくできても、受座部分は各工事現場で使用される種々の傾斜角度を持ったコンクリート型枠材の傾斜面の傾斜角度に合せて何種類もの製品を必要とするという不便ないし無駄があったため、被告中村は、この不便ないし無駄を解消するという課題を解決するため、受座部分についても回動式本体部分と同様に、従来品の一個の受座を固定部材とスライド部材とに分割し、両者を嵌合したときスライド具被締結材側の壁面が固定具のナット締付面側の壁面に対し角度自在の回動式の構造とする着想を得て、昭和五五年一〇月頃、右着想をもとに固定具にスライド具を嵌め込んで角度自在に回動するように構成した被告旧製品(検乙一の2)の設計図(乙二の2)を作成した。この被告旧製品の構造は、本件実用新案登録願書添付明細書及び図面記載の実施例の構造と設計上の微差を除き概ね同一である。しかし、被告中村は、被告旧製品の考案の原理作用は、当時自らが実用新案登録出願中であった前記2の回動式本体部分の考案のそれと同一であり、右出願中の考案について実用新案権を取得すれば、その権利範囲は被告旧製品にも及ぶと考えていたこと及び当時資金余力に乏しかったことなどから、被告旧製品の考案については独立して実用新案登録出願をしなかった。そして、被告中村は、被告旧製品についても回動式本体部分の場合と同様に、その頃右設計図に基づいて金型の製作とその製作された金型による製品一万五〇〇〇個の製造を安居製作所に依頼するとともに、この被告旧製品と同被告が考案し当時実用新案登録出願中であり既に市販を開始していた、回動式本体部分びこれらに螺合させる金属製コン軸とを組み合わせてセットにした被告旧販売品を「型枠用自在テーパーコン」の商品名で宣伝広告した(その宣伝広告のため取引先に配布したのが乙第三号証のパンフレットであり、これも前回同様大原印刷に依頼して作成したが、甲第八号証及び乙第九号証のパンフレット作成時の版下〔印刷用の原画〕を一部修正して利用したものであり、前記コン軸のネジ溝線の間隔は均等に修正されているが、前記小数点の誤植は訂正漏れでそのまま引き継いでいる。)。そして、同被告は、個人事業の「ニチモ工業」を製造発売元として、完成した被告旧製品を固定式受座に代えて回動式本体部分等と組み合せてセットにした被告旧販売品を、〈1〉 昭和五五年一二月二二日頃日鉄工業株式会社に対し四二〇〇個、〈2〉 昭和五六年一月八日頃フジ商会こと平瀬金之亟に対し一万五〇〇個、〈3〉 同日頃辻商工株式会社に対し七〇〇個の合計一万五四〇〇個(安居製作所は通常注文数よりも四、五〇〇セット余分に製品を納入していた。)販売し完売した(右販売製品の納品書〔控〕の摘要欄等には、「動く座」又は「動く座付」の付記部分があるが、これは当時未だ相当数の在庫があった前記回動式本体部分と固定式受座部分及びコン軸を組み合わせてセットにしたコンクリート型枠材の締結具の販売と区別するために記載したものである。)。そこで、被告中村は、安居製作所に一〇万個の被告旧製品の追加発注をしたが、その後同社が経営不振に陥り倒産したため、結局製品は納入されないままに終わった。

ところで、右設計図(乙二の2)とそれに基づいて製作された金型により製造された被告旧製品〔検乙一の2〕との間には、平成五年六月一〇日付被告中村本人調書添付図面記載の〈1〉「細長い溝」、〈2〉「半円形の切欠き」及び〈3〉「長孔の方向」の各部分で形状に若干の相違があるが、〈1〉は雄と雌の金型を合せその中に合成樹脂を注入して製品を製造する際、この部分に細長い溝を設けないと、この部分のみ製品の厚みが他の部分より厚くなりすぎ、合成樹脂の冷却時間が他の部分より長くなることから製品全体が均等に冷えず、その結果、出来上がった製品に歪みを生じ設計したとおりの製品が得られないことになるため、〈2〉はスライドガイド舌片を成形するため雄金型に長い足状部分を設ける必要があり、その足状部分を通す切欠きが必要であるため、〈3〉は雄金型から製品を取り出し易いようにするため(乙二の2ではやや強調されすぎているが、検乙一の2の動く座製品の対応部分も上にいくほどテーパー状をしている〔円錐状に先細りになっている〕。)、いずれの点も金型の製作に際し金型製造業者安居製作所の指摘に基づき同社と相談して右設計図に図示された形状に若干の修正を加えた結果であると認められる。(甲二、八、乙二の1・2、三、五の2~4、六、九、一一の1・2、一二、一三の1・2、一五、一六、一八、検乙一の1・2、三の5、被告中村本人、弁論の全趣旨)

6  被告中村は、安居製作所が倒産し同社よりの製品供給がストップしたため、同社に依頼して製作した被告旧製品の金型を回収しようとしたがそれを果たせず、自らの個人事業の経営が行き詰ったため、やむなく個人事業を停止しタイセイ建材の下請先でプラスチック廃材加工業を営んでいた西宇にそれまでの事情を説明して、同人の経営する西宇製作所で働くようになった。被告中村から事情を聞いた西宇は、昭和五六年六月頃、自ら出捐して安居製作所の下請先から右被告旧製品の金型を取り戻してこれを自分の保管下に置いたが、その保管中の昭和五六年一〇月七日、西宇を考案者及び出願者として、本件考案について実用新案登録出願をした。右願書(甲三の2)添付明細書の記載中には、現実に考案した者自身の出願又はその者が関与した出願であればそのような記載をするはずがないと認められる部分がある。すなわち、〈1〉 実施例の説明では、本体部分に関する説明がなく、願書添付図面第9図にはコンクリート注入部分の側に受座を使用するような状態で図示されているが、そのような使用の仕方をすれば、硬化したコンクリート中から受座を取り外せなくなってしまうことになり、受座の通常の使用方法では使用不可能なものである。〈2〉 願書添付図面第3図、第5図及び第7図に図示されたスライドガイド舌片5の側壁4への取付位置は、回動式受座部分の角度調整の範囲(受座の断面形状の各辺の傾斜角度)を考慮に入れない位置となっている。〈3〉 願書添付図面第4図では、原告が本件考案の実施品であると主張する製品(検甲二)及び被告中村がニチモ工業時代に製造販売した被告旧製品(検乙一の2)とは異なり、スライドガイド用の切欠溝11にはストッパー壁が設けられていない。そのため、右願書添付図面の図示どおりに製品を製造すると、スライド具7は固定具1から脱落してしまうおそれがある(ストッパー壁はスライド具7の回動許容範囲を限定する役目もある。)。以上の点と西宇がプラスチック廃材加工業者でコンクリート型枠材の締結具の構造及び作用に関する知識経験が乏しかったと窺われることをも併せ考えると、右出願は、被告中村の知らない間に、西宇又は同人が当時保管していた被告旧製品の金型等の資料の提供を受けた第三者が、右金型等から考案の内容を類推して勝手にしたものと推認せざるを得ない(考案の完成時期の点は別として、回動自在の受座を考案したのが被告中村であることは原告も認めている〔証人加藤〕)。

なお、被告中村は、右西宇の出願後数か月して西宇から出願の事実を知らされたが、当時同人より資金援助を受けていた関係もあって、抗議はしたものの結果的に同人の右出願を承服せざるを得なかった。また、昭和五七年一、二月頃、被告中村と西宇との間で、被告旧販売品の製造販売事業を共同で行う話が持ち上がったものの、結局話が纏まるまでには至らなかった。(甲二、三の2、乙八、一一の1・2、検甲二、検乙一の1・2、被告中村本人)

7  そうこうするうち、被告中村は、昭和五七年六月頃、タイセイ建材の要請に応じて、同被告の手持ちの前記回動式本体部分と固定式受座部分とから成るコンクリート型枠材の締結具の在庫品を同社を通じて処分してもらうことを条件に再び同社に復帰し、建材製品の製造販売業務を担当するようになった。そして、タイセイ建材は、被告旧販売品と同一の製品(本体部分も受座部分も回動式のもの。以下「原告自在テーパーコン」という。)を製造販売することになり、西宇が前記のとおりの経緯で自己の管理下に置いていた被告旧製品の金型について、それまで三セット彫りであったものを六セット彫りにするための追加彫りをツヤマ金型製作所こと響尾敏美(以下「ツヤマ金型」という。)に依頼したが、西宇が追加彫り代金を前払いしないため、ツヤマ金型において追加彫りに着手しないままになっていたものを、西宇に代って金型の追加彫り代金をツヤマ金型に支払って追加彫りを完成させてその引渡を受け(以下「追加彫金型」という。)、西宇からは右金型を譲り受けるとともに、昭和五八年二月二五日付で西宇から本件考案について右出願中の実用新案登録を受ける権利を譲り受けて、特許庁に対しその旨実用新案登録出願人名義変更届をした。(甲三の4・5、一八、乙一一の1・2、証人加藤、被告中村本人)

8  以上の経過により、タイセイ建材は、昭和五八年三月頃、原告自在テーパーコン(被告中村がニチモ工業時代に製造販売していた被告旧販売品と同一の製品)の製造販売を開始した。すなわち、タイセイ建材は、原告自在テーパーコンの受座部分(被告旧製品と同一の製品)の製造には、西宇から譲り受けツヤマ金型に追加彫りさせた追加彫金型を使用し(右金型が摩耗し使用できなくなった後には新規にその金型の複製品を追加製作)、また、回動自在の本体部分の製造にはその金型は被告中村が所持していたため、同被告からこれを買い受けて使用し、更に、製品の販促用パンフレットについても、被告中村がニチモ工業時代に大原印刷に依頼して作成した前記パンフレット(乙三)の版下を利用しこれに製造発売元の記載等の点で若干の修正を加えて作成した(甲九、前記少数点の誤植は修正し、裏面に昭和五八年一一月一四日付財団法人日本建築総合試験所作成の「自在テーパーコンの強度試験報告書」〔甲一〇〕の一部を引用し、タイセイ建材の古い方の会社マークを記載している。なお、以後のタイセイ建材における原告自在テーパーコンのパンフレットの作成経緯についてみると、裏面における昭和六〇年七月九日付試験結果の引用、回動部分の寸法記載及びタイセイ建材の会社マークの変遷状況に照して考えると、次に甲第二六号証のパンフレットが、続いて乙第四号証のパンフレットがそれぞれ作成されたものと認められる。)。なお、タイセイ建材は、被告中村に対し、「あなたは商品名自在テーパーコンの新製品を考案されました この商品は当社に於て多大なる貢献をしております この有益な製品開発に対して金一封を添えて表彰いたします」と記載した昭和五九年二月三日付表彰状(乙七)を授与した。(甲九、一〇、一七、二六、乙三、四、五の34~40、七、一一の1・2、一二、被告中村本人、弁論の全趣旨)

9  被告中村は、昭和六三年一〇月頃、再度タイセイ建材を退社し、平成二年五月頃ベスト産業の商号で土木建築用資材の製造販売の個人事業を開業し、平成三年六月頃から被告製品を製造販売している。一方、タイセイ建材は、平成二年一〇月二日原告に吸収合併され、右合併に伴い本件実用新案権はタイセイ建材から原告に譲渡され、平成三年九月二四日付でその旨登録された。原告は、タイセイ建材が販売していた原告自在テーパーコンの製造販売を継続し、右販売の宣伝広告のために取引先に配布されたのが甲第一一号証のパンフレットである。(甲一、一一、一九、乙一一の1・2、被告中村本人)

二  【判断】

1  本件考案の技術的範囲は願書添付明細書記載の実施例に限定されるか。

右認定事実によれば、被告中村は、昭和五五年一〇月頃、本件考案の受座と同一構造を有するコンクリート型枠材の締結具の受座部分について被告旧製品の構成を創作考案し、同年一二月から昭和五六年一月にかけ、これを回動式本体部分及びこれらに螺合させる金属製コン軸と組み合わせてセットにした被告旧販売品を「型枠用自在テーパーコン」の商品名で宣伝広告するとともに、これを製造販売したものと認めることができる。原告は、右事実を争い、被告ら提出援用の証拠を論難するが、前掲各証拠(特に、甲三の1~7、乙一、三、六、七)、右認定事実(特に、回動自在の受座の考案者が被告中村であることは原告も認めており、そうすると、同被告の考案完成は出願日〔昭和五六年一〇月七日〕より前であることは明らかであること、また、願書添付明細書及び図面の記載からみてこれら書類の作成に同被告が関与したと認め難く、そうすると西宇又は同人の依頼を受けた第三者は被告旧製品の金型の実物を検分してこれら書類を作成したと考えざるを得ないこと、したがって西宇は当時右金型をその管理下に置いていたと推認できること)及び被告中村本人尋問の結果に照らすと、原告の主張は採用できない。

そして、本件考案は、出願日(昭和五六年一〇月七日)において、既に市販されていた被告中村製造販売の被告旧製品(公知技術)とその技術的構成が同一のものであることは明らかであり、本件考案は、その出願前に日本国内において公然実施された(ないしは公然知られた)考案というべきであり、本件実用新案権は明らかな無効原因(実用新案法三条一項1号・2号)を有することになる。本件訴訟においては、このような無効原因を有する本件実用新案権でも一応有効に存在するものとして取り扱わなければならないが、本件実用新案権の保護と競業者たる被告らの利益との調和を図るためには、その技術的範囲は、願書添付明細書及び図面に示された実施例と一致するものに限られると解するのが相当である。

2  実施例と被告製品との対比

そこで、願書添付明細書及び図面に示された実施例と被告製品を対比すると、少なくとも、〈1〉 実施例では、固定具のガイド壁3の側壁4の形状は台形状に構成している(公報第3図、第5図及び第7図)のに対し、被告製品では、固定具のガイド壁3の側壁4の形状は略二等辺三角形状に構成している(別紙物件目録添付図面第1図及び第2図)点、〈2〉 実施例では、スライドガイド舌片5の形状は公報第3図、第5図及び第7図の各斜視図の視点において上下幅の薄い板状体又はそれに突起のあるものに構成しているのに対し、被告製品では、スライドガイド舌片5の形状を別紙物件目録添付図面第1図及び第2図の各斜視図の視点において先端をガイド壁3に向けて屈曲したL型に構成している点、〈3〉 実施例では、スライドガイド舌片5は別紙(1)に丸印で表示した位置、すなわち凹ガイド壁3との関係で前記視点において上方に偏位した位置にあるのに対し、被告製品では、スライドガイド舌片5はガイド壁3との関係で中心の位置にある点において異なることは明らかである。

三  【結論】

以上によれば、被告製品は本件考案の技術的範囲に属するとは認められないから、被告製品の製造販売行為が本件実用新案権を侵害するということはできない。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官 阿多麻子)

物件目録

一 図面の説明

第1図 固定具1とスライド具7を組付けた受座を示す斜視図

第2図 受座の固定具1を示す斜視図

第3図 受座のスライド具7を示す斜視図

二 符号の説明

1 固定具 2 固定具の直壁

3 固定具のガイド壁 4 ガイド壁の側壁

5 スライドガイド舌片 6 ボルト貫通孔

7 スライド具 8 スライド具の直壁

9 スライド具の凸円弧壁 10 スライド具の側壁

11 スライドガイド用の切欠溝 12 長孔

三 構成

1 ナット締付面側の壁面を直壁2に形成し、該直壁2の反対側の壁面を凹円弧状のガイド壁3とし、かつ、先端をガイド壁3に向けて屈曲したL型のスライドガイド舌片5を前記ガイド壁3の両側壁4、4より内方に向い突設すると共に、前記両側壁面の中央部にボルト貫通孔6を設けた固定具1と

2 被締結材側の壁面を直壁8に形成し、該直壁8の反対側の壁面を前記ガイド壁3に対応する凸円弧壁9とし、かつ、両側壁10、10にその底面が該凸円弧壁9と平行なスライドガイド用の切欠溝11を形成すると共に、前記両壁面の中央部にスライド方向の長孔12を貫設したスライド具7とから成り、

3 前記固定具1のガイド壁3にスライド具7の凸円弧壁9を前記スライドガイド舌片5を介してスライド具7の脱落を防止するよう固定具1とスライド具7を嵌合し、

4 スライド具7の直壁8が固定具1の直壁2に対し角度自在とされ、ナットの座面と固定具1の直壁2及び被締結材の面とスライド具7の直壁8とが面一となるように構成した、

5 受座。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉実用新案出願公告

〈12〉実用新案公報(Y2) 昭60-37457

〈51〉Int.Cl.4F 16 B 43/02 E 02 D 27/01 E 04 G 17/03 識別記号 101 庁内整理番号 7526-3J B-7151-2D 7709-2E 〈21〉〈44〉公告 昭和60年(1985)11月8日

〈34〉考案の名称 受座

〈21〉実願昭56-149849 〈65〉公開昭58-53914

〈22〉出願昭56(1981)10月7日 〈43〉昭58(1983)4月12日

〈72〉考案者 西宇晴一 東大阪市御厨1010番地

〈71〉出願人 タイセイ建材工業株式 大阪市城東区中央2丁目9番20号会社

〈74〉代理人 弁理士 安田敏雄

審査官 清田栄章

〈56〉参考文献 実開 昭55-31047(JP、U)

〈57〉実用新案登録請求の範囲

1 ナツト締付面側の壁面を直壁に形成し、該直壁の反対側の壁面を凹円弧状のガイド壁とし、かつ、スライドガイド舌片を前記ガイド壁の両側壁より内方に向い突設すると共に、前記両壁面の中央部にボルト貫通孔を設けた固定具と;

被締結材側の壁面を直壁に形成し、該直壁の反対側の壁面を上記ガイド壁に対応する凸円弧壁とし、かつ、両側壁にその底面が該凸円弧壁と平行なスライドガイド用の切欠溝を形成すると共に、前記両壁面の中央部にスライド方向の長孔を貫設したスライド具と;から成り、上記固定具のガイド壁にスライド具の円弧壁を前記スライドガイド舌片を介してスライド具の脱落を防止するよう固定具とスライド具を嵌合し、スライド具の直壁が固定具の直壁に対し角度自在とされ、ナツトの座面と固定具の直壁及び被締結材の面とスライド具の直壁とが面一となるように構成したことを特徴とする受座。

2 固定具のスライドガイド舌片に突起を形成し、該突起と嵌合する複数個の凹孔をスライド具のスライドガイド用の切欠溝に適宜凹設したことを特徴とする異用新案登録請求の範囲第1項記載の受座。

考案の詳細な説明

本考案は被締結材を締結する際に使用されるボルト、ナツト等による締結具の受座の改良に関する。

従来の締結作業は、第1、2図で示すように被締結材aの両側壁b、bの位置関係が平行関係にない場合、締結具cの機能を発揮させるために傾斜壁d、dに合致した各種の角度を有する側面くさび形状の受座eを個々に必要としていた。しかし、被締結材の傾斜壁に合致した各種の角度を有する個々の受座の生産には、それぞれ別個の金型を必要とし費用が嵩むばかりではなく、出来上つた受座を各作業場で使用する場合にあつては、傾斜壁に適合する受座を選出するという作業を必要とし作業時間の労費となり、各種作業の遅延と作業費用の増大を招来するという不都合を生じていた。

本考案は、従来受座の有する欠点を解消し、受座生産コスト高を防止し、被締結部材のあらゆる壁面に即応できる受座とすることにより、締結作業の迅速化と確実化を図ることを目的とするものであり、従つてこの目的達成のためにナツト締付面側の壁面を直壁に形成し、該直壁の反対側の壁面を凹円弧状のガイド壁とし、かつ、スライドガイド舌片を前記ガイド壁の両側壁より内方に向い突設すると共に、前記両壁面の中央部にボルト貫通孔を設けた固定具と; 被締結材側の壁面を直壁に形成し、該直壁の反対側の壁面を上記ガイド壁に対応する凸円弧壁とし、かつ、両側壁にその底面が該凸円弧壁と平行なスライドガイド用の切欠溝を形成すると共に、前記両壁面の中央部にスライド方向の長孔を貫設したスライド具と; から成り、上記固定具のガイド壁にスライド具の円弧壁を前記スライドガイド舌片を介してスライド具の脱落を防止するよう固定具とスライド具を嵌合し、スライド具の直壁が固定具の直壁に対し角度自在とされ、ナツトの座面と固定具の直壁及び被締結材の面とスライド具の直壁とが面一となるように構成したことを特徴とする。

以下、本考案の実施例を図面に基づき説明する。

第3、4、5図において、1は硬質合成樹脂で形成した固定具であり、該固定具1はナツト締付面側の壁面を直壁2とし、直壁2の反対壁面を凹円弧状のガイド壁3に形成すると共に、スライドガイド舌片5、5を前記ガイド壁上の両側壁4、4より内方に向い突設し、上記両壁面2、3の中央部にボルト貫通孔6を設けた側面視略々くさび形状である。7は硬質合成樹脂で形成したスライド具であり、該スライド具7は被締結材側の壁面を直壁8とし、直壁8の反対壁面を上記固定具1のガイド壁3に対応する凸円弧壁9に形成し、スライド具7の両側壁10、10の中間部にはスライドガイド用の切欠溝11、11をその底面11′、11′が前記凸円弧壁9と平行に円弧状に設けると共に、上記両壁面8、9の中央部にボルトが挿通する長孔12をスライド方向に貫設した側面視三カ月形状である。なお、前記固定具1とスライド具7は硬質合成樹脂で形成したものであるが、その素材はこれに限定されるものではない。13は受座であり、該受座13は、上記固定具1の凹円弧状に形成されたガイド壁3にスライド具7の凸円弧壁9をスライドガイド舌片5、5を介してスライド具7の脱落を防止するよう固定具1とスライド具7とを嵌合したものからなる。固定具1とスライド具7とが嵌合された受座13にあつては、スライド具7の直壁8が固定具1の直壁2に対しスライド具7の凸円弧壁9が固定具1の凹ガイド壁3面上をスライドすることによつて角度自在とされ、第6図で示すようにボルトとナツトとによる締結具のナツトの座面と固定具1の直壁2および被締結材の壁面とスライド具7の直壁8がそれぞれ面一関係になるよう構成されている。即ち、第6図で示すように、壁面14が傾斜面とされている被締結材15をボルト16とナツト17等とによる締結具で締結する場合にあつては、先ずボルト16を固定具1に設けられているボルト貫通孔6とスライド具7に設けられている長孔12に挿入した後、固定具1の直壁2とナツト17の座面を面一とし、ナツト17を順次螺合するとスライド具7に形成されている凸円弧壁9が、被締結材15の傾斜壁14とスライド具7の直壁8が面一となるまで固定具1の凹ガイド壁9面上をスライドする。ここに、ナツト17の座面と受座13および受座13と被締結材の傾斜壁14との間にそれぞれ間隙を有することなく、確実な締結作業が完了するものである。なお、ナツト17の螺合作業に際して、スライド具7に長孔12が設けられているので、スライド具7のスライドやナツトの螺合作業にはボルト16が存在しても抵抗を生じることはなく何等支障がない。

第7図は、受座13を形成する固定具1のスライドガイド舌片5の下面に突起18を設けた固定具1の他の実施例を示し、第8図は、スライド具7のスライドガイド用の切欠溝11の底面11′、11′に適数個の凹孔19を設けたスライド具の他の案施例を示しており、前記突起18が凹孔19に嵌合すると固定具1とスライド具7の確実な固定がはかられ、締結具の受座としての効果を更に向上せしめるものである。なお前記突起18は舌片5の下面に設け、一方凹孔19は切欠溝11の底面11′に設けたものを示したが、これらの突起18及び凹孔19は舌片5及び切欠溝11の適宜位置に設けることができる。

第9、10図は、被締結材を布基礎やフーチング22を形成する際に使用される型枠20とし、該型枠20の間隔を保持する際に使用されるセパレーク21の受座13として用いた例を示している。既に第1、2図を例として従来例を示したが、第9、10図で示すように、受座13を用いれば、各種角度を有する個々の受座eを各別に準備する手間が省けるのである。即ち、第9図は、型枠20の両側壁が傾斜壁とされる布基礎22を形成する場合に、セパレータ21の受座13として型枠20の内外面にそれぞれ2個合計4個用いた例を示しており、受座13は固定具1とスライド具7とから構成され、スライド具7の直壁8は傾斜壁14と面一となるように円弧壁9が固定具1のガイド壁3面上をスライドするので、受座13の一種のみを用意すれば足り、第2図に示すような各種角度を有する受座eを各別に選択する手間と時間とが解消でき、作業時間の短縮化が図れると共に、人件費や部材費のコスト高を防止できる利点がある。

第10図は、一側壁が傾斜壁とされ、型枠20の外面に受座13を用い、内面には従来公知のテーパーコーンFを使用した例を示しているが、受座13は各種の傾斜壁14に即応できるようなスライド具7を有するので、従来のように、各種の受座eを必要としないのは云うまでもない。また、受座13を第9、10図で示すように、型枠支保工のセパレータ用の受座として用いた場合は、型枠20の取外しと同時に受座13も取外されるので再使用可能であり、経費の軽減が図れる。なお、受座13を用いる具体例として、セパレータ用とした場合を示したが、あらゆる締結具の受座として利用可能であることは云うまでもなく、更に、被締結材が傾斜壁や直壁を有する場合でも利用可能である。

本考案の受座は、従来における各種角度を有する個々の受座の使用を解消し、受座選択の手間を省き、一種の受座を用いれば足りるので、作業時間の短縮化と備品のコスト高を防止できるという利点がある。しかも、締結具であるナツトの座面および被締結材の壁面と受座の直壁が常に面一となるために、確実な締結作業が確保され、作業の完全化が図れる利点がある。

本考案に係る受座は、型枠支保工のセパレータ用の受座に限られることなく、各種締結具の受座として各方途の作業に利用できるので、その利用価値大となり有益なものである。

図面の簡単な説明

第1、2図は従来例を示し、第3図は本考案の固定具の傾斜図、第4図は同スライド具の斜視図、第5図は本考案の固定具とスライド具を組付けた受座の斜視図、第6図は使用状態を示した側面部、第7図は固定具の他の実施例斜視図、第8図はスライド具の他の実施例斜視図、第9、10図は使用状態を示した説明図である。

1……固定具、2、8……直壁、3……凹ガイド壁、7……スライド具、9……凸円弧壁、11……スライドガイド用の切欠溝、12……長孔、13……受座、18……突起、19……凹孔。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

第6図

〈省略〉

第7図

〈省略〉

第8図

〈省略〉

第9図

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第10図

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別紙(1)

〈省略〉

別紙(2)

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実用新案公報

〈省略〉

〈省略〉

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